2021年オリジナルダイアリー

一年に数回、店を始めた頃から現在までのダイアリーを見返さなくてはいけないことがあります。探している事柄を見つける度に良かったと思い、何でもきちんと書いておかなくてはいけないと思う。

システム手帳でも、綴じの手帳でもいい。しっかり書いておかないと記録としてのダイアリーは後で役に立たない。

時系列で調べることを考えると、綴じの手帳の方が散逸しにくく、探し易いのかもしれません。今回は綴じの手帳としてオリジナルダイアリーをお勧めしたいと思います。

もう11年作り続けている定番商品です。

手帳というよりもA5サイズの長辺を少し短くした158ミリ×158ミリの正方形サイズで、記録として書いておくためのスペースを確保しつつ携帯性も考慮した大きさです。あまり大きくなると机の上で広げにくくなりますし、色々な事情を忖度した使いやすいサイズだと思っています。

今回の2021年のダイアリーは大きくリニューアルしましたので、ご紹介させていただきます。

まず表紙のデザインを変更しました。

11年間同じ表紙を愛着を持って使っていましたが、改めて今の感覚でデザインし、紙もシックで質感のあるものを使用しました。

中紙は万年筆の書き味や、にじみ、裏抜けしにくさにこだわって選んだ、ダンデレード紙に変更しました。にじみのない正確なインク乗りと柔らかい書き味を楽しんでいただけます。

罫線のレイアウトは変更していませんが、フォントをタイプライター文字にして、少しクラシックな印象にしました。やや骨太で温かみのある書体は存在感もあり、遊び心も感じられる紙面になったと思います。

私は正方形ダイアリーのウイークリーをM5システム手帳とバイブルサイズのシステム手帳と併用しています。使い方としては、1日1ページで使っているM5手帳の情報を清書して、数年後に見返しても分かるようにすることと、スケジュール、ToDoの管理です。

ウィークリーページの右側土日下のフリーの記入欄は4分割とチェックボックス付きの欄があって、その週にする自分の仕事を項目別に書いています。項目はORDER、WORK、WRITE、MEMO、THINKで、それぞれゴム印を作って押しています。

シックで、少しマニアックな感じの表紙をそのままでお使いいただいてもいいですが、今年も革のカバーを作りました。

革は、残り少なくなったダグラス革を裏張りなしで、薄めに使って仕上げています。

カバーの内側にペンホルダーを装備していて、手帳用には太めのペリカンM800くらいまでのサイズにも対応できるようにしています。

オリジナルダイアリー同様、革カバーも自分たちならこう使うという主張を込めた、少しラフに仕事の道具として使っていただける仕様にしています。

オリジナルダイアリーも、作り始めて11年たって、当時と今とでは世の中は大きく変わりました。オリジナルダイアリーもそのままで良いわけはなく、今の感覚に合わせて、使ってみたいと思ってもらえるようにする必要がありました。モデルチェンジさせて新しいスタートをきりたかった。

今使って下さっている方に迷惑は掛けられないけれど、変えられるところは全て変えたいと思い、出来上がったものが来年版のダイアリーです。

少し遅くなったけれど、システム手帳とともに使い分けてお使いいただきたいと思っています。

*オリジナル正方形ダイアリー(正方形ダイアリー/ノートTOPへ)

*コンチネンタル正方形ダイアリーカバー

A5システムバインダーの受注製作

私にとってシステム手帳やダイアリーは清書するもので、後からちゃんと読めるように自分なりにキチンと書くものなので、それらに走り書きをすることはありません。

原稿の下書きや打ち合わせのメモ書きなどにはA5サイズのルーズリーフを使っていて、これはノート代わりの使い方なのかもしれません。

文字の形を気にせず、太めの万年筆や4BのペンシルでA5サイズのルーズリーフに書くと、伸び伸び書けて気持ちがいい。穴の数の違いはありますが、6穴のA5システム手帳とルーズリーフの役割はそれほど変わらないので、ノート的に使うこともできます。

私と同じようにバイブルサイズとA5サイズを使い分けている人は多くて、M5やバイブルがあるのだから、A5サイズのシステム手帳も作ってほしいという声はありました。

そんなとき、カンダミサコさんからA5サイズのシステムバインダーを受注製作で受け付けませんかという提案があり、期間限定で始めて見ることにしました。10月末まで受け付けをして、12月中にお渡しすることにしました。

表革は丈夫なシュランケンカーフ、内革は艶の出るブッテーロです。

リング径は携帯性と使い勝手のバランスが良い16mm径で、色はシルバーかゴールドをお選びいただけます。ただしゴールド金具のご注文が多い場合は、メッキ加工の都合でゴールド金具のみ1月にズレ込む可能性があります。

同じものをまとめてたくさん作る量産ではなく、ご注文のものをひとつずつ製作するパターンオーダーという形になり、いくつものパターンの中からお好きな色を選んでいただいてお作りすることができます。

バイブルサイズ、M5サイズの金具を独特な方法で固定する平らに開く仕様はA5サイズでも採用しており、紙を綴じたままでの書きやすさはさすがです。

A5サイズのメリットは、紙が大きく伸び伸び書けることに加えて、A4サイズの書類を2つ折りにしてそのまま綴じられる、ファイル的な使い方ができることもあります。このあたり変形サイズであるバイブルサイズにはない使い勝手の良さだと思います。

A5サイズも、システムバインダー、システム手帳の範疇に入るものなのかもしれませんが、バイブルサイズなどの手帳らしいサイズのものとは違う用途があると思っています。

*受注生産 カンダミサコ A5システムバインダー(期間限定:2020.10.31受付まで)

手帳のコーディネート

ステーショナリーも上質なものになるほど、実用の要素は薄れ、趣味、ファッションに寄っていくものだと思います。だから高価な万年筆に値段分のスペックだけを求めるのは野暮だと思う。

それくらいの万年筆になると、用途ではなく、自分の心に作用するものだと思います。その万年筆がただ鞄の中に、ペンケースの中にあると思えるだけで嬉しくて元気になれるような、心に作用するもの。必要な用途があって持っているのではなく、心に作用して何故か持っていたいと思えるものを扱っていたいと思います。

ただそのモノに直感的に惹かれて思い切って手に入れてみたら、ものすごく書き味が良かったというものが、私が目指す当店の万年筆のあり方ですし、万年筆以外のものでも同じようにしたい。

値段の高いものが書きにくいということは許されない。

書き味などフィーリングの良さへの要求は、趣味の方が実用で使うものよりも高いものが求められている気がします。人は自分が好きなものだからこそより良いものを求めるのかも知れない。趣味も満足させるクオリティを私たちは提供しなければいけない。

先日発売した、オリジナルのM5手帳、アルランゴートのローズゴールド革は、硬そうに見えるかもしれませんが、実はしなやかで手触りが気持ち良い。手に触れることが多い手帳にも合った、質感の良い革です。

この革をカンダミサコさんに見せていただいた時、これで何か作りたいと思いました。

女性に向けてということはもちろん意識していたけれど、素敵な男性が選ばれることもあって、この革の選択は間違っていなかったと思っています。

この手帳とアシュフォードの小口ローズゴールドのリフィルの組み合わせは、キマり過ぎなくらい完璧なコーディネートですが、もうひとつ組み合わせて持ちたい筆記具が限定発売されました。

カランダッシュエクリドールXSローズゴールドボールペンです。

M5手帳のペンホルダーに収めるためにあるような、かなり短めのボールペンです。このモデルは定番でしたが、数年前に廃番になり、姿を消していました。そのモデルがローズゴールド張りで再販されたというのは、やはり今のM5手帳の盛り上がりが理由なのかもしれません。

このローズゴールドのエクリドールXSボールペン、偶然とはいえこのアルランローズゴールドのM5手帳にためにあるようなものだと思いました。

小口ローズゴールドのリフィルを入れたこの手帳のペンホルダーに、ローズゴールドのエクリドールが差さっている。これ以上のコーディネートはなく、完璧に仕上がっていると思います。

手帳の中身をきれいに工夫しながら書くのも楽しく、趣味にもなることだと思いますが、ここまでくると中に何も書かず、ただ持ち歩くだけでも楽しい気分になる。

もちろん書いても楽しいですが、形を完璧に整えて持っているだけで嬉しいものも当店は提案したい。

当店は書き味の良い万年筆を追究しているから、こだわって調整した万年筆を販売しているけれど、こういう使わなくても嬉しい気分になる、遊びの、趣味のものもどんどん扱いたいと思っています。

⇒カランダッシュエクリドールXSローズゴールドボールペン

M5手帳、アルランゴートのローズゴールド革

オリジナリティのあるものを勧めたい

この仕事に携わって30年近くになりますが、何が世の中にウケるのか自分の狭い了見だけで判断してはいけないと思っています。自分が受け入れられないと思っても人気が出た商品もあるし、経験というのは意外とアテにならない。

だからスタッフや職人さんの言うことはいつも尊重するようにしています。

でもどんなに良いものであっても、それが何かを真似たものなら魅力を感じません。職人さんがそういうものを作ることはないけれど、メーカーの作ったものはそうやって見極めています。

当店が扱う商品に求められているのは実用性だけではないと感じるし、私もそうありたいと思いますので、扱うモノにはオリジナリティがあって欲しい。

そういうものを選んで提案するのが私たちの仕事で、そういうフィルターもなく、何の選別もしないのでは、差別化ができないと思っている。

それは個人の独断と偏見だと言われるかもしれないけれど、私が良いと思っているものを買っていただけるようにしたい。

いつも店にあるようにしたいと思っているものにファーバーカステルクラシックコレクションがあります。

最近日本では品薄で確保することが難しい状況が続いていますが、2016年限定のスネークウッド使用のボールペンとペンシルが入荷しました。

スネークウッドは幻の木と言われるもののひとつで、入手が難しいことでも有名です。

水に沈むほど目の詰まった質量の高い木で、非常に硬い。匹敵するのは硬い木として有名なリグナムバイタくらいかもしれません。蛇のウロコのような独特の模様や褐色の色目が男心をくすぐる素材だと思います。

ファーバーカステルクラシックコレクションは、デザインが特長的で美しいので、揃いの木で一緒に持ちたくなるペンだと思います。

ペンが映えるピッタリのペンケースを探すのもペンの楽しみの一つですが、こういう素材感のあるペンは、残り少なくなったダグラス革を使用したコンチネンタルペンレスト兼用万年筆ケースがよく似合います。

自分の美意識を反映させてコーディネートできたペンとペンケースを、仕事をしている傍に置いておくことができたら、なかなか楽しいのではないかと思います。

9/26(土)・27(日)、工房楔の木工家永田篤史さんが来店されイベントを開催します。工房楔の木製品はまさにオリジナリティに溢れた、素材も作りも上質なものです。

*今回のイベントは予約制になっていますので、参加ご希望の方は当店のホームページからご予約をお願いします(トップページに予約ボタンがあります)

*スネークウッドボールペン

*スネークウッドペンシル

*コンチネンタルペンレスト兼用万年筆ケース

ANTOU(アントウ)ボールペンCミニ新発売

万年筆店がただ書きやすい万年筆だけを売っていればやっていくことができる時代はとっくに終わっていて、私たちは例えば、ゴルフや釣りなどに負けない楽しさを示さなければいけないと思っていました。

今では同業者は手を取り合ってお互い高め合い、相乗効果を狙う同志でなければいけないと思っていて、ライバルはゴルフショップやつり道具屋なのだと認識しなければいけない。

同様に筆記具メーカーも安泰ではありません。筆記具メーカーは、よく書けるペンを作っていれば勝手に売れて、やっていける時代ではなくなっています。よく書けるのは当然で、そこに楽しさがなければいけない。

極端な言い方をすると、多少実用性を無視していても楽しさが提案できれば、世の中に受け入れられるのかもしれません。書きにくいと言っているわけではないけれど、アントウはそんなペンなのだと思います。

キャップがマグネット式なので素早く開け閉めができるとか、替芯を先端の口金で固定しているので、ペン先のブレがなかったり、芯と口金が当たってカチカチ鳴ることがないなど筆記具としての良さを挙げることはできるけれど、このペンが使う人にもたらす楽しみの前には、それらは本当に些細なことに思えます。

アントウは、様々なボールペンの替芯をその長さや形に捉われずに使うことができるのが大きな特長ですが、このペンが創り出しているのは、このペンで使う替芯を探す遊びです。

手帳に使いたいのなら、細く書けて自分の好みの書き味やインクの色を持っているボールペンの芯を探せばいいし、サインペンのように使いたければ太字の水性ボールペンを探せばいい。

アントウのペンを所有した人は文具店の筆記具売場で、様々なペンを試してみて、好みのものを見つけようと時間を忘れて過ごすことになるでしょう。

本国のホームページに載っていましたが、アントウのボールペンに新製品が追加されました。ボールペンCよりも1.5mmほど短く、わずかに細い「ボールペンCミニ」とスタイラスペンを備えた「ボールペンS」です。

当然、ボールペンCの方がミニよりも多くの替芯に対応しますが、ミニの小ささはこの無骨なペンに少しの可愛らしさを与えています。

アントウのペンのボディの内寸をそれぞれ記しておきます。替芯探しのお役に立てればと思います。

・ボールペンC 長さ101mm 直径7.8mm

・ボールペンCミニ 長さ92mm 直径7mm

・ボールペンS 長さ101mm 直径6mm

上記のサイズよりも小さな芯であれば使えるということになります。ただ、一部口金を通らないものもありますのでお気を付け下さい。

私は文具店にいた経験があるので、アントウのペンに入れたい芯をいくつも思い浮かべることができます。お客様と話をしていても、文房具に詳しい人ほどこのペンを面白いと思ってくれるようです。

ただ書くだけのペンは、いくらでも見つけることができます。でもこういう楽しみのあるペンはそうそうあるものではないと、文房具好きなお客様方にお勧めしたいと思います。

⇒ANTOU ボールペンCミニ

⇒ANTOU ボールペンS

原稿用紙

万年筆を使う人なら誰でも考えたことがあると思いますが、私はずっと原稿用紙を上手に使いたいと思ってきました。

そう思ってたまに原稿用紙に向かったり、めったにないけれど向かわざるを得ない状況になった時に、マス目に一文字ずつ収めた自分の文字があまりにもサマになっていなくて幻滅してしまい、それ以降しばらくは原稿用紙に手を出さないということを繰り返しています。

原稿用紙に慣れるためのトレーニングで、原稿用紙に小説などの文章を書き写すということもやりました。文字の美しさを気にせず、原稿用紙のマスのサイズに慣れるためにひたすら名文を書くのはたしかに楽しく、皆様にもお勧めしたい方法です。

私も根気強くやっていればよかったけれど、しばらくしてやめてしまった。

今から思えば、原稿用紙の枠の中に文字を収めようとした時に何らかの気負いを生んで、字が固くなってこなれた感じにならなかったのではないかと思います。

きっと原稿用紙に向かうと小学生の頃の気分を思い出してしまうのだと思う。私の場合それは懐かしさではなく、夏休みの読書感想文とか、テーマが決められた宿題の類いで、意気込むけれどあまり上手くいかなかった時を思い出してしまいます。

その時自分にあたぼうの飾り罫原稿用紙があればもっと、 原稿用紙に対して力を抜いて自然体で向かうことができたかも知れません。 といっても今の自分には万年筆がありますので、それだけでもあの頃とはかなり違うけれど。

あたぼうの飾り罫原稿用紙の自由な感じの罫線も気楽な感じでいいし、何よりもインクの伸びが良くて書き味の良い、薄めの紙質が使いやすい。

キンマリSWという紙は、印刷用紙としても聞いたことがありますが、原稿用紙という大量に書く用途に合っていると思います。

原稿用紙はB判が多いですが、飾り罫原稿用紙はA4サイズで、二つ折にして穴を開けると、ルーズリーフやシステム手帳にそのまま綴じることができ、原稿用紙というものの最近の使われ方に合っているように思います。

この原稿用紙のマスの大きさだと国産Mくらいがピッタリの字幅で、気持ち良く書くことができました。あたぼうさんは封筒も発売していますので、この原稿用紙を便箋としても使うことも勧めておられるようです。

昨年、気まぐれを起こして、神戸新聞の公募にエッセイを投稿しました。

残念ながら掲載はされず名前だけが載りましたが、またそういうこともやってみたいと、ふと思いました。

⇒あたぼう 飾り原稿用紙

大きさ合わせ

最近、文房具のサイズや規格など、様々な適合を探すことを楽しんでいます。

どういうことかと言うと、例えばハガキはA6サイズなので、半分に切って穴をあけるとちょうどM5手帳に綴じることができるとか、オリジナル正方形ダイアリーとマルマンクロッキー帳SQサイズは大きさが近いので、一緒に持つのに相性が良いなど、他愛もないことだけど、こういうことを見つけるのが楽しい。

Antou(アントウ)のボールペンの開発者はこの楽しさが分かっていたのかもしれないと思います。アントウはメーカーの垣根を超えて様々な形状のリフィルを使うことができる台湾のボールペンです。その楽しみは奥行きの深いもので、私は休みの日にアントウに入れるための安いペンを色々探したりしています。

アントウほど多様な芯が使えるわけではないけれど、パーカータイプのリフィルを使うボールペンもメーカーを横断して様々な芯を使うことができるので、自分好みの芯を探す楽しみがあります。

パーカータイプの芯のトレンドは、ジェットストリームやデュポン、パーカーなどのイージーフロー芯で、インクの粘度が低く、筆圧をかけずに快適に書くことができるものが中心になっています。

しかし、人によっては滑り過ぎると言われることもありますので、イージーフロー芯だけが良い芯だとは言えないようです。

ペリカン、アウロラ、ファーバーカステルなどは、パーカータイプの芯を使用しますが、イージーフローでない従来の油性ボールペン芯を使用していますので、書き比べてお好みに合う方を選ぶといいと思います。

もちろんただ書ければいいわけではありません。趣味的な要素の高いボールペンになるほどデザインの良さは何よりも大切だし、自然の素材が使われていることはそのデザインの良さに付加価値を与えるものだと思っています。

私の独断と言うほかないかもしれないけれど、当店の革製品などと雰囲気の合うボールペンをいくつか選んでみました。コーディネートで選ぶのも文房具の楽しみだと思います。

当店のオリジナルの革製品コンチネンタルは、野趣味溢れる、磨くとすごい艶が出るダグラス革使用していますが、そのダグラス革同様に使い込むと風合いの出る自然の素材を使ったボールペンです。

アウロライプシロンシルバーボールペンは、スターリングシルバーのボディですが、価格が安めに抑えられています。

高級ボールペンは回転式のものが多いですが、イプシロンはガチッと押すノックタイプで、このワイルドな使用感もまたコンチネンタル的だと思います。太めで握りやすく、アウロラらしいボールペンです。

そしてもう一つ、S.Tデュポン・ディフィブラッシュドコッパーボールペンは銅の素材感があって、他にはないボールペンです。ダグラス革との相性がとても良く、最もコンチネンタル的なボールペンだと思っています。

万年筆は一人の時間、休みの時間を楽しくしてくれるものだと思いますが、ボールペンは仕事の時間を楽しくしてくれるものだと思います。

他のものとのコーディネートを考えながら、ボールペンも気に入ったものをこだわって使っていただきたいと思っています。

⇒AURORA イプシロンシルバー ボールペン

⇒S.T.Dupont ディフィブラッシュドコッパ―ボールペン

日常を楽しむ

十年前、ル・ボナーの松本さんと分度器ドットコムの谷本さんと、ボローニャを中心としたイタリア中部の街を旅しました。

週末だったと思います。街の中心にある広場のようなところに、割とドレスアップした人たちが集まって立ち話をしたり、ベンチに座ったりしていました。同じような服装で自転車に乗り、同じところを行ったり来たりする年配の男性もいました。

皆、用事があって集まっているという訳ではないけれど、いつもの週末を思い思いに楽しもうとしていることが旅行者の私たちにも分かりました。

どこか特別なところに行ったり、高級なレストランに行くことだけが楽しむことではない。自分が着たい服を着て、広場に出て行くだけで、繰り返しの毎日や平凡な週末が楽しいと思える時間になる。

イタリアの人はそうやって普段の時間を楽しもうとしていることを知りました。

コロナウイルス禍で、私たちは今までのようにどこかに出掛けにくくなってしまって、この状況がいつまで続くか分かりません。ただ何の楽しみもなく過ごしていても心は晴れないから、いつもいる場所で楽しめるようにする必要があります。

万年筆は家での静かな時間を楽しむのにとてもいいものだと思うし、例えば近所に、生活に必要なものを買い物に行く時、胸ポケットに愛用の万年筆を差して出掛けるだけでも、普通の日常が楽しいものになるのではないかと思います。

平凡な庶民の日常を貴族のように過ごすイタリアの人たちを見て、美しいイタリアの万年筆が生み出される背景が見えたような気がしました。

アウロラのあるトリノには行っていないけれど、トリノに住む人の日常もそれほど変わらないのではないか、広場に集まる人たちのスーツの胸ポケットにはポケットチーフの代わりにアウロラの万年筆が差してあるのではないかと思います。

昨年100周年を迎えたアウロラから、定番万年筆オプティマの新色アランチョとビオラが発売されました。

アランチョは、みずみずしい果実を思わせるオレンジ色です。限定万年筆ソーレで大切に使ってきた太陽の色をとうとう定番品として解禁しました。

ビオラは、惑星シリーズ「ネブローザ」で大好評を博した、大人の色気漂う紫色です。

限定品で人気があった色を定番品に追加したことで、100周年のメモリアルイヤーを終えたアウロラが、今後定番品を腰を据えて販売していくという意思表明をしたのだと私は捉えています。

毎日使うことができる信頼性があり、その書き味は味わい深く、使うごとに甘さを増していく。そしてキャップを閉めると意外と短くなるので、胸ポケットに差してもちょうど良く収まってくれる。

私が万年筆を使い始めたばかりの若い頃、このオプティマに憧れていました。そしてやっと手に入れてから、この万年筆によって自分が身を置く小さな日常の中で楽しみながら生きることを知ったような気がします。

⇒AURORA オプティマ ヴィオラ

⇒AURORA オプティマ アランチョ

今の時代の流れの中にあるもの〜2020年限定アルランゴート革ローズゴールドM5手帳

ずっと流行というものに背中を向けてやってきました。

万年筆というものにとって流行は無縁なもので、それは自分が追うべきものでないと思っていたからなのかもしれません。自分が扱うべきものは永遠の定番のもので、すぐに廃れて飽きられてしまうようなものには手を出してはいけないと思ってきました。

その気持ちは変わっていないし、そういう店だからお客様は安心して当店でモノを買うことができるのだと思っています。

でもある時から、この分野にも流行がはっきりと存在するようになりました。せっかく今の時代にこの仕事をしているのだから、ずっと使われてきた定番のものと同じように、流行の今の感覚に合ったものも扱っていきたい。そして、追うべき流行と見送るべき流行を見極めて世の中に提案したいと、意識が変わってきました。

そう思うと読む本や聞く音楽なども変わって、古いものよりも、今の時代に生み出されたものの方が自分の感覚にも近いと思うようになりました。

革は様々な条件で、作られなくなるものも多いけれど、新しいものもどんどん作られている。それはアパレルとの絡みも多いからだと思いますが、今の時代の感覚に合った革はたくさんあることを知りました。

一昨年から、その年の限定と決めた大胆な革を使ったステーショナリーをカンダミサコさんに作ってもらっていて、今年はフランスのゴート専門のタンナー、アルランのメタリックゴートレザーを使うことにしました。

当店としてはかなりの冒険をしたと思われるかもしれませんが、万年筆にもその流れが来ているローズゴールドの革を使いたいと思いました。

ナチュラルな感じのものが多いカンダミサコさんですが、この革をいくつかの候補とともに勧めてくれて、意外とすぐこれに決まりました。

M5サイズシステム手帳は、その時の気分で中身をそっくり入れ替えて使うような、ある程度遊びが許されるものだと思っています。

コンチネンタルM5システム手帳で表現した、機能性よりもコロンとしたフォルムや、厚い革の感触を味わう遊びもM5手帳だからこそ実現したと思っていて、今の流行を反映したものを取り入れるのに相応しいアイテムだと思っています。

メタリックゴートレザーは、革に特殊な加工をして表面を箔のような仕上げにしています。かなりしっかりしていて、すぐに表面が剥がれてしまうことはないので、ご安心下さい。

ずっと以前、万年筆が流行を先導していた時代もありました。私が万年筆の仕事に携わるようになってからは、一部の人たちの間で小さな流行はあったかもしれないけれど、万年筆の時間は静かに、淡々と流れていました。

しかし近年では流れが、強く、早くなったことを実感します。

私もその流れを見送り続けるほど齢をとっているわけでもないので、いつまでも新しいものへの好奇心を持っていたいと思っています。

⇒カンダミサコ アルランゴート革・ピンクゴールドM5手帳(2020年モデル)

書くことの楽しさを思い出させてくれるセーラーの万年筆

以前にもいくつかご紹介しましたが、M5システム手帳に合うペンとして、セーラーのプロフェッショナルギアスリムもいいのではないでしょうか。

コンパクトなボディの両エンドを平らにした、ベスト型と言われる長さを切り詰めたような形のペンで、キャップを尻軸につけると持ちやすい長さになり、硬いと言われる14金のペン先は手帳に小さな文字を書くには適した仕様だと思います。

セーラーと言えば、その工場についてよく思い出します。

工場というものはあまり街中に建っているものではないと思うけれど、セーラー万年筆の工場ほど喧騒から離れたところにある工場は少ないのではないかと思います。

呉の小さな漁師町のようなところにあり、こういう立地とセーラーの万年筆の持ち味に関連性があるのではないかと思っています。

それだけセーラーの万年筆には独特な良さがある。

万年筆作りは、変わり続ける世の中の情勢や様々な条件に左右されず、変わらずに良いものを作り続けることができることも大切だと思います。

セーラーがある呉市天応というところはそれが比較的やりやすい場所なのではないかと、あののどかな風景を思い出して勝手に想像しています。

ところでセーラーの万年筆の特長について、私は長い間よくつかめずにいました。

筆記角度を50~60度で、ペン先をひねらずに紙に当てると書き味がとても良いけれど、そこから外れると引っ掛かりを感じる。それは書き方を指定するものだと思っていました。

それはペンポイントの研ぎの形がそのようになっているからですが、その研ぎは書き味のためだけではないのかもしれないと、セーラーの万年筆を使い込んでみて思いました。

セーラープロフィット21という超定番の、セーラーで最も標準的な万年筆を使ってみて気付くのは、どの万年筆よりも自分なりにきれいな文字が書けるということでした。

パイロットは、どんな方向にも同じように滑らかにペンが走り、気持ち良く文字を書くことができる万年筆が多い。その性能はすごいと思うけれど、書ける文字や書き味という、味の点では、セーラーにより深い味わいを感じます。

その味は書くことが単純に楽しいという、私たちが万年筆を使いたいと思う原点のようなものを思い出させてくれるものでした。

それは14金のペン先でも、スチールペン先の安価なものでも同じで、それぞれがちゃんとセーラーの味を持っているように思いました。

セーラーの味はペン先の研ぎに由来するものだと思っていますが、ボディの太さや重さ、バランスなども関係するのかもしれません。

万年筆にはいろんな楽しみ方があって、微妙な書き味の違いを楽しむのもまた万年筆ならではものです。その言葉で言い表しにくい曖昧なものを捉えることも、大人の万年筆の楽しみ方だと思っています。

⇒セーラー プロフェッショナルギアスリム

⇒セーラー プロフィット21